第53章

病院の前、道路の向かい側に一台の黒いマイバッハが停まっていた。

運転席の窓が三分の二ほど下がっている。

骨ばった大きな手が、タバコを挟んだまま何気なく窓の外に置かれていた。

その冷たく白い長い指の間で、一点の猩紅が妙に目を引いた。

風が半分を運び去り、彼は半分を吸い込む。

猩紅色の火が風の中で明滅し、まるで彼の感情のようだった。掻き立てられては理性に押し殺され、そしてまた繰り返し......

男の陰鬱な横顔が白い煙の中に隠れ、霧が彼の鋭い眼差しを遮り、ただ寂しさだけが残っていた。

彼は最後の一本の沈香スティックを取り出し、タバコに挿して火をつけた。

この淡い沈香の香りは、九条...

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